日本では、全国の各地方で和紙作りが行われている。使う材料や漉き方によって、同じ和紙でも質感や用途はさまざま。その数は1000種類にも及ぶという。それぞれの和紙にはその土地の名前がつけられ、各地方の特色ある文化として受け継がれている。数多くある産地のほんの一部を紹介する。
原料となる植物が栽培でき、美しい川が流れていることが、和紙作りの条件。北海道から沖縄まで、自然が豊かな多くの場所で、その伝統は受け継がれている。
■細川紙
埼玉県小川町・東秩父村
(Photo: Toyoshimo Masanao)
今回の特集でも紹介した、世界遺産に登録された和紙のひとつ。日本国内でも1978年、その手漉き技術が日本の重要無形文化財に指定されている。楮の強い繊維がしっかりと絡み合った強靭な紙質と、飴色の素朴でやさしい色あいが特徴。記録用紙や着物を包む紙、壁紙や障子などに使われる。
■石州半紙
島根県西部
(Photo: Sekishu Washi Kaikan)
島根県西部で作られる石州和紙の中でもとくに、楮を原料とした和紙を指す。2009年にはすでに単独で世界遺産に登録されている。3000回折り曲げてもちぎれないほど丈夫と言われており、主な用途は障子や書画用紙など。現在はたった4軒の職人家族たちによって、伝統継承の努力が行われている。
■本美濃紙
岐阜県美濃市
(Photo: Shutterstock)
和紙作りが盛んな美濃の和紙の中でもとくに、厳選された原料、道具、限られた職人の手によるものだけを「本美濃紙」と呼ぶ。原料となる楮の黒皮を丁寧に取り除き、わずかな不純物も残さず真っ白に仕上げる。光に透かすと、繊維が美しくからみ合った地合がよくわかる。美しく柔らかい、最高級の障子和紙として評価されている。
■名塩和紙
兵庫県名塩
(Photo: Shutterstock)
雁皮を主原料に、火山灰の泥を混ぜ込む独特の製法で作られる名塩和紙。泥の色合いによって、紙の色みが変わってくる。シミやシワが付きにくく、虫にも喰われにくい特徴から、名高い歴史的建造物や美術品の修復作業にも重宝される。その強さ、しなやかさは、金屏風の下地に使うと、時が経つにつれて金箔を輝かせる力がある。
■越前和紙
福井県五箇地区
(Photo: JNTO)
原料は楮、三椏、雁皮など、用途によって使い分ける。日本の和紙の中で最も歴史が古いとされ、「紙の王様」とも呼ばれている。明治時代の初めに流通した全国統一の貨幣「太政官札」の用紙として使われ、日本中に越前和紙が流通した歴史もある。
■越中和紙
富山県五箇山、八尾、蛭谷
(Photo: keijusha)
越中和紙は、富山県内の五箇山)、八尾、蛭谷の三産地の和紙を総称したもの。富山はかつて「薬売り」で発展し、その薬袋が和紙で作られていたという独自の歴史がある。若い後継者も多く、新しい和紙製品の開発にも積極的に取り組んでいる。
■因州和紙
鳥取県東部
(Photo: Shutterstock)
鳥取市の佐治村、青谷町の2カ所で受け継がれる伝統技術。楮、三椏、雁皮を主原料として、絶妙な配合で作られた和紙は墨との相性が抜群。書道や水墨画のための手漉き和紙としては日本一の生産量を誇る。紙が出来上がってから数ヶ月〜数年寝かせてから使用すると、筆の滑りが良い、味わいのある紙になるという。
■琉球紙
沖縄県
沖縄の歴史に初めて和紙が登場するのは1694年。時代の流れとともに1944年に一度消滅するが、情熱ある職人たちによって、数十年の時を経て見事蘇る。とくに糸芭蕉という植物を原料とした芭蕉紙は、沖縄で生まれ、沖縄でだけ作られる希少な和紙。繊維の粗さ、茶色がかった独特な色みは、他の和紙にはない魅力。
SENDA MAYU/ kilala.vn