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久恒俊治さん:機械工学の職をあきらめ、加賀友禅の工房を開設

Art    • 2019年03月13日

Text: Lang Vi / Photo: 本人提供/ Translator: My Phung

加賀友禅の産地、金沢市にある加賀友禅の工房「友禅空間 工房久恒」は1987年に設立されました。この小さな工房のただ一人の職人が久恒俊治さんであり、家族が工房をサポートしてくれています。

「友禅空間 工房久恒」では、着物作りはもちろんのこと、泉に手をふれる感触のように柔らかくて透明なシルクのマフラ、木造の屏風、ガラス皿などにも加賀友禅の技術を巧みに取り入れ制作しています。それらすべては、久恒さんの創造性と絶え間ない努力の賜物です。久恒さんは、加賀友禅の技術との出会いは「偶然」と言いますが、筆者には、日本独自の伝統文化を保存しつつ発展させるための運命の出会いと思えてなりません。 

加賀友禅

加賀友禅の作家になることは、幼い頃からの夢だったでしょうか?

加賀友禅と出会ったのは単なる偶然でした。大学で機械工学を学びましたが、その頃は日本が第1次石油ショックに見舞われ、国際情勢も非常に混沌としていました。そうしたことから、会社に就職することはせずに、一人でできる仕事を見つけることにしました。そうした折に加賀友禅の求人広告を見つけて見学に行き、修行の道に入ることになりました。

加賀友禅

有名な加賀友禅作家である鶴見保次さんの下で修業することになったきっかけは?

鶴見工房へ見学に行ったときに鶴見先生とお話しができ、優しい人がらを感じて入門させていただくことにしました。


鶴見保次さんはどのような教え方をされたのでしょうか?

ほかの工房では、友禅染めの技法の一部のみしか学べませんが、鶴見工房では生徒たちに全てを教えてくれました。鶴見先生は日展のメンバーであり、鶴見工房は江戸時代からの老舗の染色工房です。

先生はとても優しい方でした。仕事は9時から18時でしたが、まだ仕事が終わらなくてもしばしば早退させてくださり、自分だけが残業されていました。私たちが夜の三時まで仕事をするようなときには、奥様が夕食を用意してくださるなど、家族のように接していただきました。他の工房の先生方はとても厳しいとよく言われていたので、鶴見先生に出会えて良かったと思っています。

友禅空間 工房久恒

加賀友禅は、複雑で難しい染めの技法だと伺いました。修業中にたいへんだったのはどのようなことでしょうか。

私は11年間修業して、ようやく自分の染色工場を設立することを決意しました。 修業を始めた頃には、数え切れないほどの失敗がありましたが、そのおかげでたくさんの経験を積むことができ、その後の成功に繋がったと思います。失敗は成功の始まりということですね。


加賀友禅作家になるためには、どのような性格と才能が必要と思われますか。

最初は誰もが貧弱です。自分の弱点を認め、成功に繋がる道を探し続けながら進めばよいと思います。最も重要なことは忍耐力と意志の強さ、そして努力ですね。


工房久恒の製品で最も人気ある絵柄は何でしょうか。

それは草花絵柄です。私個人としては、時代の美しさと優雅さにあふれる古典的な絵柄が好きです。

加賀友禅

アイデアはどうようにひらめくのでしょうか。

この仕事は、ずっとデスクに座っているだけではアイデアはひらめきません。森や川に出かけたりすることで突然アイデアがひらめくことがあります。


木材やガラスなどに加賀友禅の技術を使うというアイデアはどこから思いついたのでしょうか? テスト中に問題が発生したことはありますか?

現在、着物の人気は昔ほどではありません。三十年前から「着物ではなく新しいものを作ってみたい」とずっと考え続けていました。ある日、街を散歩している最中に、建築中の家からヒノキの香りがしてきました。施工業者から捨てられた木を何枚か頂戴し、工房で色を塗ってみました。染料が思いのほか美しいことに感動して、それ以来、木材にも加賀友禅の技術を使い始めました。

木材に使える染料と接着剤を開発するため何度も混ぜ合わせては失敗し、ようやく満足のいく染料を作り出すことができました。「無駄なことはせずに、着物だけを作っていればいい」と何度も言われ続けましたが、妻の理解と励ましもあり、たくさんの困難を乗り越え開発に成功しました。自分が新たに作り出した製品が愛用されているのはとても嬉しく思います。自分が作った製品の中では、世界一軽くて薄い繊維である「天女の羽衣」を使用したショールの「天女の羽衣手描加賀友禅染」や加賀友禅の模様で飾ったガラス皿などが好評です。

加賀友禅

自分の工房で最も誇るべきことは何でしょうか。

人材と、前向きの姿勢です。


将来やろうとしていることはありますか?

加賀友禅を地元の文化として生かし、ローカル色とグローバル色を融合させたGlocalな製品を作りたいです。


今後の予定について教えていただけないでしょうか。

「加賀友禅と世界の植物性染料を混ぜ合わせる」というアイデアがあります。これまで日本の桜、オーストリアのブドウ、シンガポールの蘭から作った塗料で試してきました。いろいろな国の植物を使って多くの染色を作り出し、日本と外国との文化交流に自分のノウハウを役立てることが出来たらと思います。


ありがとうございました。

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