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立川志の輔-故郷にも似た、落語の魅力

Culture    • 2018年05月06日

Text: Senda Mayu/ Photo: Nguyen Dinh

高座と呼ばれる舞台に、ざぶとんが一枚置かれている。拍手とともに登場した着物姿の演者は、そこに座り、変化に富む表情と、身振り手振りを交えながら話をする。「落語」という、15世紀頃から伝わる日本の伝統的な芸能文化だ。

3月26日、日本で最も有名な落語家の一人、立川志の輔氏が、ホーチミンで在住日本人向けに落語会を行った。志の輔師匠と同郷である在ベトナム富山県人会の呼びかけで始まり、今回で9回目。500席近い数のチケットは、毎回あっという間に売り切れてしまう。

笑いも感動も、聞き手の想像力次第

Shinosuke Tatekawa

立川志の輔氏 (Photo: Nguyễn Đình) 

「落語は、聞き手が仕事をしなくてはいけない芸能なんですよ」。開演直前の控室。貴重な休憩の時間を割き、志の輔師匠が落語への思いを語ってくれた。「聞き手であるお客さんには、想像してもらわないといけないんです。演者はざぶとんに座り、話しているだけ。その中で、江戸時代の世界がみえてくる、演者は男なのに、女がいるかのように見えてくる―というのは全部、聞いている人の中にあるもの。その仕事をやめられてしまったらそこで終わってしまう。落語は最も弱い芸能なんです」。

 演劇のように、豪華なセットやきらびやかな衣装もない。音楽ライブのように、飛び跳ねて盛り上がるわけでもない。客席は「笑う」ことだけで一体感を作り出していく。「おかしいでしょう、このご時世、CDもDVDもインターネットもあって、いつでもどこでも、ましてやタダでも落語が聞けてしまうんですよ。それなのに、わざわざお金を払って、会場まで時間をかけてやってきて、飲み物もおしゃべりも携帯電話も許されない、笑うことしか許されない場所に来てくださるんです。忙しい合間を塗って、落語のために時間を割いてくださることが、いちばんの驚きと感謝です」。

今の時代だからこそ、「生」の魅力に触れてほしい

落語は、日本人にとっても決してわかりやすい芸能ではない。見たことがなく、難しそうと思っている人が少なくないのもまた事実だ。しかし、「ぜひ生で落語を見ることを重ねてほしい」と志の輔師匠は言う。インターネットが発達し、パソコンやスマートフォンが当たり前になった現代。「想像力」を必要としないエンターテイメントも増殖した。「文明が発達すれば、イマジネーションが落ちてゆく」という言葉に、思わずどきりとさせられる。「そういう時代だからこそ、「生」に触れてほしい。説明するのが難しいこと、実際に行かないとわからないことというのがある。落語の魅力がまさにそう。生で聞けば聞くほど面白くなる。故郷の富山県も似ていてね、行かないとわからない、漠然とした素敵さがあるんですよ」。

今回行った演目は「猫の皿」と「紺屋高尾」という、古典を題材にした2つ。1つ目の「猫の皿」は、江戸時代の骨董商が猫をだしに使い、茶店の店主から高級な皿をだまし取ろうとする話だ。驚くことに、その落語を聞いている間、とにかくずっとそばで、華奢な茶色いトラ猫が餌を食べていた。人によって猫の毛色や大きさはさまざまだろうが、「想像させる」志の輔師匠のパワーは、圧倒的であった。

日本語だけではなく、日本の文化的背景を知ってこそ深く楽しむことができる落語は、外国人が楽しむには少し時間がかかるかもしれない。しかし、日本にこのような文化があることを知ってほしい。そして機会があれば、ぜひ生の落語に触れてみてほしい。

SENDA MAYU/ kilala.vn

Shinosuke Tatekawa

立川志の輔

1954年富山県生まれ。1983年に立川談志に入門し、落語家に。今や日本では「最もチケットがとれない落語家」でありながら、ベトナムを始め、タイやシンガポール、ミャンマーなどの海外でも公演を行っている。

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